阿部寛・専務・36歳

 水曜に課の飲み会があった。
居酒屋→カラオケのめんどくさいコース。
うちの課長(36)は今日はやたら上機嫌だった。
 カラオケから最寄の駅に向かう道中、その課長と
2人並んで歩いた。すると今度私の先輩が
奥さんの家の事情で退職することになり、
27歳の私はうちの支店で20代最年長になって
しまった、という話になった。すると

「◎◎さんももう27でいい年やろ?
俺の友達でな、まあ、年は俺と同い年やからちょっと
◎◎さんとは離れてるけど、阿部寛似で男前やし
専務で金持ってるし、ええやつおんねんけど、
一回紹介しようか?」

と言い出した。まず、私は薄い顔が好きなのに
阿部寛って・・・大体こういう時に例えに使われた芸能人に
似ている確立はほぼ0%だろう。ただ全く違うということは
無く、きっとこの場合『濃い顔』という点は100%確定だと思った。
何より、会社がらみで紹介してもらうって後々厄介。
最初からお互い気に入らなくても何だし、
うまくいって途中でダメになってもだし、
うまくいって結婚ってなってもイヤだ。

 絶対この課長の「俺は部下を成婚へ導いた」という
武勇伝として私は末永く語り継がれることになる。

 すると思いがけないことを言い出した。
「実はな、これは絶対内緒やねんけどな・・」
「はあ」
「○○さんと△△さんにも紹介したったことあってな」
ええええええ!!この2人、○○は内田有紀似の
1つ下、△△は榮倉奈々(確かこんな名前)似の
私の後輩!!両方相当カワイイ。△△は4月に転勤したので
結構前の話になる。
「で、どうだったんですか?」
阿部寛似は○○さんのこと気に入ったらしいけどな、
○○さんはそうでもなかったみたいであかんかったわ」
 あの〜、それだとますますイヤなんですけど・・・

 電車に乗り、色気のあるキレイ系先輩のHさんと
Oさんに早速この話を報告。
するとまだ話の序盤でHさんが
阿部寛やろ?」と言い出した。ええ?何で知ってんの?
「私もそれ何年も前に言われたことある!
私は結局行かんかってんけどな」
 みんなに言ってるんかい!!

 電車を降り、速攻△△に電話。
「課長が阿部寛似の人、紹介してくれるって言ってるんやけど
何かこの話に心当たりない?」と聞くと、急に彼女は
アハハハハハと豪快に笑い出し「ありますねえ」
「○○さんと課長との間でそんな話になったみたいですよ。
実際行ってみたら、阿部さんはすごく紳士的でいい方でした。すごくお仕事忙しそうでしたけど、お金は持ってる感じでしたね。」
「○○さん△△さん課長、阿部とそのほかのメンツは?」
「阿部の兄か弟かが来てましたね」

はい、消えたー!!血族を連れてくるヤツなんて無い!!
大体そんなに何年も前から色々紹介してもらってて未だ独身など何か理由があるに違いない。最後に

「実際、阿部寛には似てたん?」
「全然似てないですねえ。濃いのは濃かったですけど」

やっぱりかーい!!
出会いのチャンスは何でも掴んどけ、と
思ってたけど、これは絶対に有り得ない、と終わった。